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231215 10年間の夢

●施設に入っている父方の祖母がここのところ危篤状態にある。 
じつは10年ちかく前にも一度危なくなったことがあった。細かいことは忘れたが、その時は、わたしの親たちが医師と共に祖母の食事のいっさいをあきらめて胃瘻に切り替える判断をした。わたしは胃瘻というものをそのときまで知らず、病院の診察室ではじめて説明を聴き、泣いて退室した。おいしいごはんをちゃんと食べて喉を詰まらせて死んだ方がましだと思った。 
路傍の石ころを差し置いて祖母は、経口摂取はいっさいなしのまま寝たきりで10年生きた。結婚する少し前の2017年くらいまで、わたしは年に2回札幌への飛行機に乗り、施設へ続く山のふもとを歩いて、会ったところでろくに話せない祖母の様子をひとりで見に行った。 

●祖母は老後、趣味で音楽にかかわるようになって、地域の合唱団に所属していたらしい。祖父は祖母が自宅で倒れたあとしばらくひとりで暮らしていたが、息子であるわたしの父親に精神病院に入れられてすぐに死んだ。祖母は入院してから祖父のことを忘れてしまったので、その死は知らされることはなかった。ともかく夫婦ふたりで暮らしていた家は空き家になったので、きれいに保つために時々両親が手入れをした。 
リフォーム前、3階(北海道の家はたいてい1階がガレージなので実質2階だ)に祖母の小さな趣味部屋があり、そこには昔ながらのリードオルガンが置かれていた。祖父が死んだ直後、そこに入ったときの記憶が鮮明に残っている。
楽譜立てには、弾きかけの譜面が開いたまま置かれていて、そのすぐそばに私と母がピアノの発表会で連弾している写真が貼られていた。 

●もうすっかり祖母の生を諦めた親父に、おばあちゃんの遺影の頭頂部の合成をカメラ屋に頼んだけどうまくいってないからお前やってくれないかと頼まれ、仕事のあいまに祖母の写真をレタッチしている。元写真を見ると完全に頭頂は切れていたし、カメラ屋の仕上がりをみてもPhotoshopで最短経路で済ませようとしたらそらこうなるよな、という感じだった。合成だからってなんでもできるわけではないし無いものを産み出すのは手間だ、と父親に伝えたが、参考の頭頂部の写真をいくつか送るからいいようにやってくれと返された。 
そうはいっても送られてきたそれらは髪の長さはバラバラだし、アングルも全部ちがっている。でもいくつかを見比べてみると頭頂部が切れてしまっている最初の写真がいちばんいい顔で、葬式で見送るならこのおばあちゃんがいいなとも思う。 
ああでもないこうでもないと悩んでいると、「ついでに見つけたので送ります」というメッセージとともに、父母兄と私の家族4人で撮った(おそらく4人で行った最後の)旅行写真が後追いで送られてきた。嫌な親父だなと思った。
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